離婚をする場合、財産分与をすることが必要となります。財産分与とは、「結婚生活の間に夫婦で築き上げた財産を精算すること」です。
夫婦で築き上げた財産がプラスの財産のみであれば、それらを分配すれば終了です。しかし、借金などのマイナスの財産が含まれている場合は、トラブルとなることが少なくありません。
マイナスの財産が含まれている場合、どのように財産分与を行うのでしょうか?借金の負担から逃れる方法はあるのでしょうか?
今回は、夫婦の財産にマイナスの財産が含まれている場合、どのように財産分与を行うのかについて解説します。また、財産分与は放棄することも可能ですので、放棄する方法や注意点についても紹介します。
目次
財産分与から除外できる借金もある
借金などのマイナスの財産は、財産分与の対象となります。
ただし、下記の借金については、財産分与の対象から除外することができます。
ギャンブルのための借金
夫婦の一方がギャンブルにのめり込んでおり、ギャンブルのために借金をした場合には、財産分与の対象から除外することができます。
このような借金は、夫婦の共同生活のために使われたお金ではなく、もっぱら一方の道楽として消費されたものであるため、財産分与の対象に含まれません。
別居後に作成した借金
離婚を前提として別居しているご夫婦の場合は、「別居時」を基準として財産分与をします。
別居をしている以上、既にお財布は別々であり、それぞれの生活費は各自で負担するべきだからです。
このため、別居を開始した後の借金については、財産分与の対象とはなりません。
一時的な別居については注意が必要
別居には、様々な形態があります。冷却期間として一時的に別居をしている場合については、別居中の借金が財産分与に含まれる可能性があります。
また、別居と同居を繰り返している場合は、お財布が別々であるとは言い難いため、別居中の借金が財産分与に含まれる可能性が高くなります。
このように、「別居」と一言でいっても、一律に判断することはできません。
「既に別居しているが、自分の場合の借金はどうなるのか」ということについて、具体的なアドバイスをお聞きしたい方は、なるべく早い段階で弁護士に相談しましょう。
結婚前に作成した借金
財産分与の対象は、「結婚生活の間に夫婦で築き上げた財産」です。つまり、結婚前に作成した借金は、財産分与の対象とはなりません。
借金をした年月日は、借用証書や契約書に記載されています。この年月日が、婚姻をした日よりも前であれば、財産分与の対象から除外することができます。
マイナスの財産がある場合の財産分与の方法
それでは、ご夫婦の財産にマイナスの財産が含まれている場合、どのように財産分与を行うのでしょうか?
マイナスの財産には様々な種類がありますので、借金の種類ごとに対処法を紹介します。
銀行や信用金庫からの借金
銀行や信用金庫から借金をしている場合は、預貯金などのプラスの資産と比較して、どちらが大きいかを確認します。
総額としてプラスになる場合は、そのプラスの財産を夫婦で分配します。
反対に、総額としてマイナスになる場合は、現在の家庭裁判所の実務では、「財産分与するものがない状態」と考えられています。このため、裁判所に財産分与の申立てをすることができません。
しかし、あくまで「裁判所で判断をすることができない」ということです。当事者同士の任意の話し合いによって、財産分与の取り決めをすることは可能です。
総額としてマイナスになる場合であっても、弁護士に依頼して交渉をすることによって、財産分与の取り決めをすることができる可能性があります。ご夫婦の財産が総額としてマイナスになる可能性がある場合は、離婚問題に強い弁護士を探し、相談することで解決の糸口が見つかるでしょう。
住宅ローン
住宅ローンの場合は、「査定価格」と「住宅ローンの残額」のどちらが大きいかを確認します。
まず、ローンの契約書や明細書を探し出して、「住宅ローンの残額」を調べます。次に、不動産価格を業者に査定してもらい、「現在の物件の価値」を調べます。
査定価格の方が大きい場合
住宅ローンの残額よりも、物件の価格の方が高い場合は、総額としてプラスの財産ということになります。
もし離婚を機に住宅を売却する場合は、売却によって得たお金を、まずローンの支払いに充てます。その残りのお金を、夫婦で分配します。
もし離婚後に夫が住宅に住み続ける場合は、「ローンの残額」と「物件の価値」の差額を計算して、その差額の半分を夫から妻に支払います。
住宅ローンの残額の方が大きい場合
物件の現在の価値よりも、住宅ローンの残額の方が大きい場合は、いわゆる「オーバーローン」と呼ばれる状態です。
この場合には、預貯金などの他のプラスの資産を含めて計算をすることが必要となります。全体としてプラスになる場合は、そのプラスの財産を夫婦で分配します。
全体として考えてもマイナスになる場合は、現在の法律実務では、「財産分与するものがない状態」と考えられており、財産分与の申立てをすることはできません。
ただし、任意に交渉を行うことは可能です。例えば、弁護士に依頼して交渉を行い、財産分与の取り決めを行うことは可能です。
財産分与は放棄することもできる
財産分与は、法律で義務付けられているわけではありません。「財産分与をする必要が無い」とお考えの場合は、財産分与の請求権を放棄することが可能です。
ただし、財産分与を放棄したからといって、マイナスの財産から逃れることができるとは限りません。例えば、ご夫婦が連帯して銀行から借金をしている場合は、財産分与を放棄したとしても、借金の返済義務から免れることはできません。
このため、財産分与を放棄するかどうかは、ご夫婦のマイナスの借金の状況を精査したうえで、慎重に検討する必要があります。
財産分与でお悩みの方は弁護士にご相談を
ご夫婦の財産にマイナスの財産が含まれている場合、トラブルとなることが少なくありません。財産分与の計算には、法的知識が必要となります。財産分与でお悩みの方は、弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
マイナスの財産をきちんと精算しなければ、適切な財産分与を行うことはできません。財産分与の計算は非常に複雑であるため、ご夫婦だけで精算しようとすると、トラブルの火種となるおそれがあります。
適切な財産分与を行うためにも、離婚問題に精通した弁護士にご相談されることをお勧めいたします。財産分与の請求には時効がありますので、既に離婚をされている方は、できる限りお早めに弁護士にご相談ください。